インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 感想

2013年のカンヌで審査員グランプリを獲得した、コーエン兄弟の監督作品。

デイブ・ヴァン・ロンクという1960年代に活躍したアメリカのフォークソング歌手の回想録を元に、ルーウィン・デイビスという架空のフォーク歌手の1961年のある一週間の生活を題材にしている。

ルーウィンは、才能はあるものの芽が出ないフォーク歌手。決まった住居も無く、知人の家を泊まり歩く生活をしている。泊めてもらった大学教授の家の飼猫を逃がしてしまったり、期待を掛けてもらい、色々お世話になっている仲間の女性歌手からは、妊娠を告げられ、その中絶費用の工面も必要になってくる。実家では、姉が父親の介護費用のために家を売ることを考えていて、ますます居場所が無くなっていく。そんな中、一縷の望みで、前にソロアルバムを送ったはずのシカゴのプロデューサーのところに売り込みに行くが・・・。

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凶悪 ピエール瀧に注目してしまう 感想

コカイン摂取で逮捕されたピエール瀧の事を想いながらNetflixを巡っていたら、タイムリー(?)にもファーストビューでレコメンドされていた本作。すでにAppleMusic等の大手音楽配信サービスではピエール瀧関連の楽曲配信が停止されるという風潮の中、この折れない堂々たるスタンス、Netflixはやはり頭一つ抜きん出ているのではないだろうか・・・と、改めて再評価していたところAmazonPrimeでも普通に配信されていた。映画作品は携わるステークホルダーの数が膨大なので安易な自粛対応は取りづらいものなのだろう。

凶悪

凶悪

冒頭2分くらいで瀧が注射針をブスリと刺して覚醒剤をキメるシーンが飛び込んできたので、ちょっと感動。
薬物事件発覚後にこのシーンを見ると「やはり経験者はキメる所作が上手いなー」と感じざるを得ない。
(瀧の場合、実際は丸めた韓国紙幣でのコカインの鼻吸入だけど)

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アメリカン・スナイパー 興行的テキサスカーボーイの苦悩

観終わった後、戦時中に軍部が協力して作った日本の戦争映画を、終戦後米軍関係者が観て、出征する兵士の家族の悲しみや、兵隊の行軍の苦労が描かれていることが「まるで反戦映画のようだ。」と言ったというエピソードを思い出してしまった。日本では、戦争や軍隊の辛さを描いても、その辛さにもかかわらず国の為に戦うことが一層英雄視され、かえって戦意高揚になってしまうのに、米国では、戦争も軍隊生活も常に楽天的、肯定的に描かなければ愛国心が掻き立てられないのだろう。

そういった意味では、イラク戦争に従軍した兵士の苦悩や家族の悲しみを描いたこの映画は、米国の観客には、ストレートにイラク戦争の悲惨さを描いた作品と映るのかもしれない。

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ウィークエンドはパリで 感想

「ノッティングヒルの恋人」の監督の作品。

ウィークエンドはパリで [DVD]

ウィークエンドはパリで [DVD]

老年に差し掛かった英国の大学の哲学講師夫妻が主人公。

御多分に漏れず、夫婦の間には漠然とした不協和音が存在していて、そんな2人が結婚30年目を迎えたことを機に新婚時代に訪れたパリを再訪、そこで様々なことが起こり夫婦の関係を確認し合って・・・という話。

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屍人荘の殺人 感想

屍人荘の殺人を読んだ。

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

冒頭、大学キャンパスの学生食堂で他愛の無い葉村と明智らによる推理合戦から、映画研究会の撮影夏合宿に参加・・・までは王道的なクローズドサークルミステリーを予感させる流れだったけれど、まさかの「展開」で未だかつて類を見ない新機軸なクローズドサークルミステリーを読ませてくれるとは思わなかった。いやいや度肝を抜かれた。

2018年版このミス1位(国内版)は伊達じゃないね。

まあ、剣崎比留子への調査報告に「それ」を匂わすようなワードが散見されていたので意識の端っこの方に「まさかね〜・・・」と薄っすら「それ」のイメージは持ってはいたけれどまさか本当にあの要素をぶち込んでくるとは思わなかった。

ほんと、脱帽モノ。

天の戸が美味しい

昨晩は秋田の地酒、天の戸を飲んだ。

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とにかく濃く、喉越しにズシンとくる味。渋味と雑味もそれなりにあるが、その味の割合がベースにある酸味も含め絶妙で、飲み心地は尋常ではないくらに良かった。

酒が五臓六腑に染み渡る感覚がそのまま多幸感に転換されるのを感じた夜だ。

名探偵の証明 感想 零落した探偵の再生への道程

市川哲也の名探偵の証明を読み終える。

名探偵の証明 (創元推理文庫)

名探偵の証明 (創元推理文庫)

100%の事件解決率を誇り、そのめざましい活躍から推理小説界に「新本格派」ブームを牽引する旗手として一世を風靡した名探偵 屋敷啓次朗。彼もまた無情に過ぎ去る時の中で寄る年波には勝てず、「新世代探偵」の台頭もあり齢60にして世間から忘れ去られてすっかり零落してしまうが、支援者や昔からの相棒の計らいを受け何とか奮起しようと試みる。

正直、本作に難解な謎解きミステリーを期待すると肩透かしを喰らう。実際、この作品が焦点を当てているのは一人の探偵が経験する隆盛と衰勢、そしてそこに生じる懊悩からの奮起だ。

その過程には新・旧問わず名探偵に付き纏う世間の批判(例えば「名探偵が存在するから凄惨な事件が起きてしまう!諸悪の根源は名探偵だ!」)が添えられ、それに対して自分の使命のためにはどんな障壁があったとしても、乗り越えていくしかないという矜持の再点火を強く示している。

ただ、その再燃からの終幕の件は衝撃的で、読後感にはただただ物悲しさだけが残ってしまったのが少し残念だった。

作中で啓次朗とタッグを組んだ新世代探偵を軸にしたシリーズが続いているようなのでそちらのチェックは一応しておこうと思う。