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終身刑を受けたようなもの

「終身刑を受けたようなもの」

アイヴァン・ロックは後部座席に座る父親の亡霊にそう囁いた。

1年前の浮気が原因で、今夜まさにロンドンで自分の子供が生まれようとしている。 明日には自分が監督している超高層ビル建設で大きな作業(ヨーロッパで過去最大のコンクリート打設工事)が控えているし、今夜については家族と自宅でサッカーを観戦する約束もある。だがアイヴァンはそれら一切を犠牲にしてバーミンガムからロンドンへと向かっていた。 なぜならば、彼は浮気相手の出産に立ち会わなければいけないからだ。

愛されようと憎まれようとやるべきことはやる
人の感情に惑わされぬように、心を強く持つ

それは自分の父親ができなかったこと。家族を顧みず自分を見捨てたろくでなしな父親の姿を空っぽの後部座席に見い出しながら、自分が犯してしまった過ちの責任を取るため、大手建設会社でのエリート社員としての地位も幸せな家庭も全てを失うことを受け入れた上でロンドンを目指し、ハイウェイを車で疾走する。

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分(原題Locke)を見た

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 [DVD]

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全編、車の中でただただトム・ハーディが車中のハンズフリーフォン越しに会話劇を繰り広げる映画。 今まさに分娩室へ向かう不倫相手をなだめたり、会社の上司からクビを言い渡されたり、仕事を託した部下に明日のコンクリート打設工事の段取りを遠隔で指示したり、はたまた奥さんから不倫について一方的に詰られ離婚を言い渡されたりという会話が次から次へと差し込まれる。そのどの会話も一定の緊迫感を保った空気感の中で展開されており全く飽きることもなく見続けることができた。86分(恐らくバーミンガムからロンドンまで高速でかかる所用時間?)とコンパクトな尺でまとめらていたこともその大きな要因だろう。

アイヴァン・ロックは自分の父親と同じ過ちを犯したくないという欲求に突き動かされ、その刹那的な衝動からロンドンに向かったんだろうけれど、その衝動によって今の家族を悲しませてしまうことに終盤、息子と交わすサッカーの試合についての会話の中で自覚し、思わず涙ぐんでしまうシーンがある。(前の会話で妻から離婚を言い渡されてしまう)後部座席の父親の亡霊がその様子を嘲笑っているかどうかの描写はなかったが、その電話を終えた後にアイヴァンは父親の亡霊と自分自身に言い聞かせるように

私が今、進む道の先には新しい命が待っている
それがあの夜の結果、原因は2本のワインだ。

と呟くのだが、ここは僕の中で一番感極まるものがあった。 全てを失ってでも自分の不貞のケツを拭うという決意がとても高尚なものに思えたからだ。 ラストで赤子の泣き声が電話越しに聞こえてくれるシーンは、その決意の先にまた一筋の光が差し込んでいることを暗示しているかのようだった。