囚人は独房の中で「舞い上がったサル」を読む。「ブラッドスローン」感想

「本物のギャングや格闘技の猛者が集結」的な封切り文句から、筋骨隆々の男達のカチコミ合いを観てスカッとしようかーと思い観たのだけれど、想定外に重厚な作りの作品で良い意味で裏切られた。

金融関連会社に勤める頭脳明晰なエリートサラリーマンのジェイコブ。
妻子にも恵まれ順風満帆な人生を歩んでいたが、飲酒運転により引き起こした交通事故で収監されてしまう。

彼が収監された監獄は暴力が支配する過酷な世界。
一度目を付けられた弱者は徹底的に踏みにじられ尊厳を奪われてしまう。
そんな環境下でジェイコブは自分の身を守るべく体を鍛え上げ、暴力を武器に刑務所という環境に自分を最適化させていく。 やがて彼は監獄内でのとある功績をきっかけに、南カリフォルニアで大きな影響力を持つ白人ギャング組織「アーリアン・ブラザーブッド」を監獄内から支配するビーストに認められて組織の一員となるのだが・・・。

暴力とは無縁なエリートサラリーマンが、監獄を支配する「暴力」に最適化していく過程でさらに罪を重ねて(敵対するギャングのメンバーを殺したり)泥沼に嵌っていく様が恐ろしい。 収監当初2年だった刑期も倍以上に延長され、重犯罪者向けのさらに自由を制限された区画に収監されてしまうし、模範囚としてようやく出社ができても縁を切った家族の安全を守るためギャングの仕事の仕切りを強要される。

郷に入りては郷に従えなんだけれど、従うとさらに転落していくという無間地獄。

本当に悪いことはしちゃいけないなと思う。 (飲酒運転絶対ダメ)

作中、重犯罪者向けの独房で看守すらも支配する「アーリアン・ブラザーブッド」のボス・ビーストがジェイコブを組織の一員として迎え入る際に言う台詞に「読書が好きなら心理学の本を貸してやる。舞い上がったサルとか」というのがあるのだけれど、デズモンド モリスの「舞い上がったサル」は学術的な本というよりスナック感覚で気楽に読む、ある種の「トンデモ本」なのでそれを心理学の本として認識するビーストの感覚が面白かった。

監獄の中から塀の外の犯罪を取り仕切る存在でありながらも、長い間、社会と隔絶されることで物事の認識に対するフィードバックループに綻びた部分があることをうまく表現しているような気がした。

終盤、色々な事に決着が着いた後、ジェイコブが自分の牢獄で「舞い上がったサル」を読むシーンがあるのだけれど、これには色々な解釈ができて面白い。

舞い上がったサル

舞い上がったサル