100%の返金保証

自動車免許の更新のため最寄りの警察署に行った。
申請書類の作成や視力検査といった通常フローは特に滞ることなく終わり、後は30分の講習ビデオの視聴を残すだけとなった。
ペーパードライバーである僕は優良運転手なので手続きの諸々にそんなに時間を要さないで済む。ペーパードライバー最高。

ただ運悪く、通常フローが終わる少し前のタイミングで講習ビデオの視聴が始まってしまったので、次のコマまで30分待たなければいけなかった。

遺失物担当窓口コーナーの正面にある待機用の椅子に座り古本屋で買った「不道徳教育講座 (角川文庫)」をパラパラと流し読みしていたが、遺失物の窓口で、「クレジットカードを落としてしまい警察署に届けを出せば仮に不正利用されてお金を引き落とされても100%返金されるのか?」と窓口担当の人に執拗な確認をするおじさんの話が気になり、そのままずっと彼らのやりとりに聞き耳を立てていた。

おじさんは窓口担当からの「100%の返金保証」の言質を求め、窓口担当の人は「それはクレジットカード会社の決めることだからねー。私から断言はできないよねー」と躱す。
そのやりとりは一定の速度で何往復も繰り返される。
どちらも主張・姿勢を崩すことは無い。

互いに想像力を働かせて、言葉をもう少し補完すれば双方が納得できる落とし所に辿り着けるはずだが、そのコストと現状維持のコストを比較すると相手が根負けして諦めるのを待つというのが合理的なのだろう。

カスタマーサービスでたらい回しにされて面倒くさくなり電話を切る経験とか、通信障害で圏外状態のiPhoneを片手に代理店で怒鳴り散らす人と、それにひたすら頭を下げてやり過ごす店舗スタッフの構図等、合理的という目線で見るとこの社会は往々にして「諦観と妥協」で回っている。

「希望と信念」ベースのアクションがもう少し増えれば、わりと社会の幸福度は向上しそうではあるが、それを促す仕組みは残念なことに凡庸なこの頭では全然思いつかない。

(余談だが、仮想通貨にはそういうもどかしさを解決する社会変化の糸口として期待をしていた。ただ、今の所はマネーゲームのプラットフォームとしての印象しか無い)

講習ビデオを観終わって、免許更新諸々の手続きを終えた頃に遺失物担当窓口コーナーに視線を向けると「100%の返金保証」おじさんと窓口の人の姿は無かった。

どちらかが諦めたのか、それとも互いが納得する落とし所を見つけることができたのかは定かでは無い。

不道徳教育講座 (角川文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)